パー値維持が崩壊した背景にある経営判断
ビットコイン関連企業のStrategyが発行する優先株STRCは、100ドルのパー値(基準価格)を維持することで安定した高利回り資産として機能してきた。ところが2026年6月、この前提が大きく揺らいだ。STRCの株価は83ドルまで下落し、パー値から17%も割り込む最低価格を記録した。この急落の原因は単一ではなく、複数の経営判断と市場環境の悪化が連鎖した結果である。特に注目すべきは、5月15日に実行された15億ドルの転換社債買戻しが、キャッシュリザーブを大幅に減少させた点だ。この買戻しは8%のディスカウント価格で実行され、一見すると賢明な財務判断に見えたが、その資金が配当支払い義務を支える現金バッファーから出ていたという事実が投資家心理を冷え込ませた。
ビットコイン価格下落とライバル企業の配当攻勢
STRCが機能するためには、Strategyが年利11.5%の配当を継続的に支払える必要がある。ところが5月以降、ビットコイン相場は10月の過去最高値126,000ドルから大きく下げ、5月中旬には80,000ドルを割り込んだ。さらに決定的だったのは、ライバルのStrive Asset Managementが同日に発表した動きである。Striveの競合優先株SATAが日次配当を開始し、利回りを13%に設定したのだ。これはStrategyが提案していた月次配当の半月次化変更よりも明らかに投資家にとって魅力的であり、STRCからの資金流出圧力となった。市場環境の悪化と競争環境の激化が同時に起きたことで、STRCを保有するインセンティブが著しく低下したのである。
配当余力の急速な枯渇がもたらした信頼喪失
最も深刻な問題は、Strategyのキャッシュリザーブの急速な減少である。年末時点では80億ドル以上の転換社債を保有していた同社が、5月15日の買戻しに現金を充当したことで、配当支払い用に確保していたリザーブは871百万ドルまで落ち込んだ。これは配当カバレッジでいえば、従来の24ヶ月分から約6ヶ月分へと激減したことを意味する。その後6月1日、Strategyは2022年以来初めてビットコイン売却を実行した。わずか32BTCという微量だったにもかかわらず、この売却は市場に衝撃を与えた。自社保有資産の売却に踏み切らねばならないほど資金が逼迫しているのではないかという疑念が広がり、STRC価格のさらなる下落を招いたのである。信用の維持が最も重要な優先株において、配当支払い余力の実像がこれほど急速に悪化したことは、投資家の信頼を根本から揺るがす事象となった。
