映画「マネー・ショート」で2008年のサブプライム住宅ローン危機を的中させたマイケル・バリー氏が、ビットコイン市場の深刻な下落が新たな金融破綻を引き起こす可能性を警告した。同氏は自身のSubstack投稿で、「恐ろしいシナリオが現実味を帯びてきた(Sickening scenarios have now come within reach)」と述べ、ビットコイン価格の下落が継続した場合に発生しうる3つの具体的なシナリオを提示している。
ビットコインは2026年1月に4ヶ月連続の下落を記録し、2018年以来最長の弱気局面に突入した。価格は昨年のピークから約37%下落しており、投資家にとって厳しい状況が続いている。バリー氏は先週発生した金と銀の急落についても、ビットコイン市場の混乱が一因であると分析している。
金属先物と仮想通貨の構造的類似性が引き起こす連鎖反応
バリー氏の警告で特に重要なのは、貴金属市場と暗号資産市場の構造的な類似性を指摘している点だ。元ファンドマネージャーのバリー氏は、貴金属先物契約が現物資産に裏付けられていない点が仮想通貨のトークンと類似していると指摘し、両資産が連動していると主張する。
この構造的類似性により、ビットコインの下落が金と銀の価格にも波及し、さらにそれが相互に影響し合う連鎖反応を引き起こす可能性がある。バリー氏は「ポートフォリオ・マージン・アカウント、トークン化された金属先物、そして暗号資産担保が相互に連結された世界では、これらの動きが持続すればビットコインは70,000ドルを割り込む可能性がある」と指摘する。
さらにバリー氏は、貴金属市場も壊滅的な売りに見舞われかねないと指摘し、金属先物は買い手が消失し価格が暴落する一方、現物金属のみが安全資産への需要で上昇する可能性があると述べた。この二極化は、実物資産に裏付けられていないペーパーアセット(先物やトークン)への信頼が崩壊し、実物資産への急速な回帰が進むシナリオを示している。
70,000ドル割れ——世界最大のビットコイン保有企業が直面する危機
バリー氏が提示した第1のシナリオは、ビットコインが70,000ドルを下回った場合だ。この水準に達すると、金融業界全体で巨額の損失が表面化する。
特に注目されるのが、マイケル・セイラー氏が率いるマイクロストラテジー社の状況だ。同社は世界で最もビットコインを保有する企業として知られ、積極的なビットコイン購入戦略を継続してきた。しかし、70,000ドルを下回れば40億ドル以上の損失を計上することになる。
バリー氏は、この規模の損失により同社は「資本市場が事実上閉鎖される(find capital markets essentially closed)」と予測する。つまり、投資家からの追加資金調達が不可能になるということだ。マイクロストラテジー社はこれまで、転換社債や株式発行を通じてビットコイン購入資金を調達してきたが、巨額の含み損を抱えた状態では、こうした資金調達手段が機能しなくなる。
マイクロストラテジー社だけでなく、他のビットコイン保有機関も保有資産で15〜20%の損失を被ることになる。この状況により、各機関のリスク管理部門が「より積極的になる(get more aggressive)」とバリー氏は述べる。これは、リスク許容度が低下し、強制的な売却圧力が高まることを意味する。
バリー氏は、最近の金と銀の価格下落が、ビットコインのこうした下落も可能であることを示唆していると指摘する。
60,000ドル割れ——存続の危機と連鎖清算の恐怖
第2のシナリオは、ビットコインが60,000ドルまで下落した場合だ。バリー氏は、この水準ではマイクロストラテジー社が「存続の危機(existential crisis)」に直面すると警告する。詳細は明らかにされていないが、同社の財務状況が根本的に揺らぐ水準であることを示唆している。
セイラー氏は過去に、株価とビットコイン保有額の比率を示すmNAVが1を下回った場合、最終手段として保有ビットコインを売却する可能性に言及したことがある。世界最大の保有者による強制清算は、市場全体にさらなる下落圧力をかけ、他の保有者にも連鎖的な売却を迫ることになる。この連鎖清算は、2022年の暗号資産の冬を引き起こしたTerra/LunaやFTXの破綻と同様の市場崩壊を招く可能性がある。
50,000ドル割れ——マイニング企業の破産と市場の完全崩壊
第3のシナリオは、ビットコインが50,000ドルまで下落した場合だ。この価格帯では、ビットコインマイニング企業の収益性が壊滅的な打撃を受ける。マイニングコストを価格が下回るため、多くの企業が操業継続不可能となり、破産に追い込まれる。マイニング企業の破綻と保有資産の投げ売りは、さらなる価格下落を加速させ、市場全体が負のスパイラルに陥る。
この段階では、バリー氏が指摘する貴金属市場の二極化も顕在化する。金属先物市場では買い手が消失し価格が暴落する一方で、現物の金属のみが安全資産への逃避需要で上昇する。この現象は、実物資産に裏付けられていない金融商品への信頼が完全に崩壊し、投資家が物理的に保有できる資産にのみ価値を見出す状態を意味する。
現実味を帯びる警告——あと9,000ドル
バリー氏の警告が特に注目される理由は、その実現可能性の高さにある。現在のビットコイン価格は約79,000ドルで推移しており、第1段階の警告水準である70,000ドルまではわずか9,000ドル、約11%の下落で到達する。1月だけで約3万ドル下落した市場において、この程度の下落は決して非現実的ではない。
バリー氏は以前から暗号資産に対して懐疑的な立場を明確にしてきた。同氏はビットコインを「何の価値もない」「現代のチューリップバブル」と評してきた。2008年の金融危機を的中させた同氏の警告を軽視することは、投資家にとって危険な判断となる可能性がある。市場は常に予測不可能な要素を含んでいるが、構造的な脆弱性が存在する場合、それが顕在化する可能性は常に存在する。
ビットコイン投資家は今、バリー氏の「恐ろしいシナリオ」が現実になるのかを見守る重大な局面に立たされている。
